手話の存在自体を知っている人は多いはずです。
テレビなどでもたまに見かけることがありますので、私も漠然とどんなものなのかは理解していました。
ただ、自分でやろうと思ったことはありませんでした。
そんな私が手話を学ぶことになろうとは……
あることをきっかけに、手話の習得トライしてみようと思うようになりました。
それは、職場に入ってきた新人社員との出会いがきっかけでした。
その新人社員との出会いが、手話との出会いでもあったのです。
というのも、新人社員のSさんは子供の頃に聴覚の病気を患ったことが原因で、言葉を聞き取れず、自らも上手く発音できないという問題を抱えていました。
筆談は問題なくできるため、コミュニケーションの面では不便はなく、仕事も本人の努力もあってスムーズにできていました。
パソコンや携帯電話などを使ってコミュニケーションをとっていたので、心配をするほど大変なことはないように当初は感じていました。
しかしながら、どうしてもお互いにレスポンスに時間を要してしまうこともありました。
どうにかしてもっとスムーズにやりとりができないかと考えた末、思い立ったのが手話を学ぶことだったのです。
Sさんとはパソコンや携帯電話の使用以外にも、ボディランゲージでやりとりをすることもあり、言葉が通じていなくても会話ができている気持ちになれました。
もっとこんな風に会話ができたら良いのにと考えた時に、ふと手話を覚えるのが手っ取り早いと感じたわけです。
ただ、テレビなどでしか手話を見たことがなかったですし、きちんと覚えることができるのか不安でした。
ところが、やってみると意外と楽しいことが分かったのです。
「この手の動きにはこんな意味があるのか」
「こうやって組み合わせると文章になるのか」
など、それまで知らなかった新しい世界に足を生み入れた気分でした。
もちろん手話を学ぶことは簡単ではありませんでしたが、少しずつスムーズに手の動作ができるようになった時には単純に嬉しかったことを覚えています。
私が手話を学ぶことで、Sさんが喜んでくれたことも励みになりました。
もちろん手話は、Sさんにとって大切なコミュニケーションツールの一つ。
巧みに指や手を使って表現してきます。
手話に関してはSさんが私の先輩ですので、本当に沢山のことを教わりました。
そのお陰で、それほど不便なくコミュニケーションがとれるようになっていきました。
最初は業務を円滑にこなしたり、意思の疎通が気持ち良くできたら良いなと単純にそう思って学び始めた手話ですが、実際に学んでみて目的以上の収穫があったと実感しています。
Sさんと心と心のやりとりが本当の意味でできているという気持ちが生まれて、言葉がなくても手話という『言葉』を使い、通じ合えるのだということを学ばせてもらいました。
私が手話を学ぶきっかけになったSさんは巧みに手話を使いこなしてしますが、すべての聴覚障害者が手話を使うわけではありません。
先天性の聴覚障害を持っている人やSさんのように幼い頃に聴覚障害を負ってしまった人にとって、手話はとても重要なコミュニケーションツールの一つと言えるでしょう。
ただ一口に聴覚障害者と言っても、手話がまったくわからない人もいれば、手話は理解できるけれど日常的にはあまり使いたくないと思っている人など様々です。
そのため、聴覚障害を持つ人と会話するときは、その人が使うコミュニケーションツールに合わせるようにしましょう。
もし聴覚障害を持つ人は手話を使っているけれど、自分は手話があまりわからない場合は筆談をお願いするなど、お互いがスムーズに意思疎通できるような工夫も必要です。
手話には種類があり、大きく『日本手話』と『日本語対応手話』、『中間手話』に分けられます。
それぞれ、どのような手話なのか見ていきましょう。
また、これらの手話以外に、ホームサインというものもあります。
いわゆる『ジェスチャー(身振り手振り)』のことで、手話を習得していない聴覚障害者が身近な人のみとのコミュニケーションに使います。
手話と違い、単語数が少なく文法もありません。
現在、ホームサインは、幼いことから農村部に住んでいたことなどを理由に聾学校に通えず、手話を習得していない高齢者に使われるのみとなっています。
一般的に聾学校で学んだ人は、日本手話を使うことが多いです。
この日本手話には独自の文法があるため、健聴者が学ぶのは少し難しいかもしれません。
日本語とは語順が違い、手の形や位置、動き以外に肩の向き、顔の表情、うなずき、眉や口の動きなど、細かいところにも文法的な意味があります。
日本手話は、聴覚障害を持つ人に長い間使われてきた言語なのです。
その点からも、日本手話は聴覚障害者にとっての母語と考えられています。
一方で日本語対応手話は、大人になってから聴覚に何らかの障害を負った人や健聴者が手話を学ぼうとするときなどに多く使われます。
日本手話が独自の文法を持っているのに対し、日本語対応手話は日本語の語順に沿って手話の単語を当てはめていくだけなので、途中で聴覚障害を負った人や健聴者でも比較的覚えやすいタイプの手話です。
中途失聴者や難聴者などは、コミュニケーションツールの一つとして早急に手話が必要になるため、上達するまで待つなどと悠長なことは言っていられません。
そのため、覚えやすい日本語対応手話を使うケースが多いのです。
そしてもう一つ、中間手話というものがあります。
中間手話はその名の通り、日本手話と日本語対応手話の中間的な存在です。
語順は日本語に沿っているため日本語対応手話同様ですが、手話の表現方法や空間の使い方などは、日本手話の特徴が取り入れられています。
このように、視覚的に理解しにくいと言われる日本語対応手話の欠点を日本手話で補うことができるように工夫されたもので、聴覚障害者が健聴者と会話する際に使うほか、中途失聴者や難聴者にも使われています。
中間手話は、日本語対応手話に含まれることも多いです。
手話は手や指の動きだけで、表現しているのではありません。
手話をする際には、唇の動きや表情も併せて気持ちなどを表現します。
もし友達と遊んで「昨日は楽しかった」と手話で伝えても、その時に楽しそうな表情をしていなければ、相手に自分の思いが充分には伝わらないでしょう。
ですから、手話をする際には、特に表情が重要な要素になります。
手話を使う聴覚障害者の多くが表情豊かなのには、こういった理由があったのですね。
表情と並び、唇の動きも重要です。
相手が使っている手話の意味が分からない場合でも、唇の動きで何を言っているのか分かることも少なくありません。
手話を使う人の中には、手指を動かすと同時に唇を動かす人もいれば、動かさない人もいます。
ただ、健聴者が手話を勉強する際には、唇も一緒に動かすことを覚えましょう。
手話を使いながらの会話では、手・指の動きや唇の動き、表情以外に、手話を読み取る側の日本語力も必要です。
例えば、「良い」という言葉にしても、手話の動作は一つですが、その意味は「良いです」という場合もあれば、「良いですか?」という場合もあります。
どちらの意味になるのかは、読み取る側の日本語力にかかっています。
手話を正しく読み取るための手助けになるのは、それまでの話の流れを正しく理解することに加えて、もちろん相手の唇の動きや表情などです。
意味を理解しながら正しく内容を読み取れるようになると、自分で手話を使う際にもスムーズな言葉選びができるようになるでしょう。
今までまったく知らなかった手話の世界。
手話を使って、通じ合えることの嬉しさを感じています。